設計趣旨
直島や豊島において、美術作品と特定の場所や自然環境をつなぐ試みが展開され、注目を集めて来た。これらの事例は一過性のものではなく、その場所に根づいたプロジェクトとして認知され、魅力的な文化事業、町づくり事業になりつつあると考えられる。このような動向から、環境と人の関係についてさらに思考を深め、特に建築空間との関係や視点を加えて構想することには一定の意義があるのではないかと考える。本研究では、以上の背景を踏まえ、自然と人の関係に着目し、自然が本来もっている力を、建築を介して人に伝えることの可能性について考察し、自然から独立した建築ではなく、自然の存在によってはじめて意味を持つ建築の計画案を提示することを目的とする。
島の9ヶ所に点在配置された9つのパヴィリオンは9種類の自然の要素や振る舞いをテーマとした空間であり、島を訪れた人はこれらを歩いて巡ることで島の自然環境を体感し、安らぎ、思索や散策ができる回遊式の美術館となるよう意図した。また、絵画や彫刻などの展示作品は置かず、自然が建築を介して提示されるよう設計した。当然ながら、自然そのものを展示する、または自然を建築に置き換えようとする試みではなく、建築が自然の中に計画される以上、自然環境における建築の振る舞いを理解すべきであり、理解したいという考えに立脚している。